東京高等裁判所 昭和63年(ラ)370号 決定 1988年12月12日
抗告人 鈴木哲夫
右代理人弁護士 小野孝男
右復代理人弁護士 松崎勝
相手方 鈴木秀夫
右代理人弁護士 系正敏
同 久保英幸
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一、抗告代理人は「原決定を取り消し、相当の裁判を求める。」旨を申し立て、その理由を別紙「抗告の理由」記載のとおり主張した。
二、当裁判所の判断
1. 抗告理由一について
本件記録によれば、(1) 本件会社は、昭和四四年六月二四日不動産の賃貸及び管理等を目的として資本金五〇〇万円をもって設立された会社であり、発行済株式の総数は一万株、一株の額面金額は五〇〇円であって、相手方が本件売渡請求をした昭和六一年一二月一五日当時においては、その株式のうち三〇〇〇株を抗告人が、六〇〇〇株を抗告人の長男である相手方が、一〇〇〇株を相手方の妻の鈴木幸子がそれぞれ保有しており、残りの一〇〇〇株は従前永井澄夫が保有していたが、本件と同様の手続により、昭和六〇年一一月七日相手方から右永井あて売渡請求がなされていたこと、(2) 本件会社の代表取締役は鈴木幸子で、取締役は相手方及び相手方の長男の鈴木英明であり、監査役は相手方の二男の鈴木聡であること、(3) 本件会社の資産は、原決定別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という)の所有権と右建物の敷地である同目録一記載の土地の賃借権(以下「本件借地権」という)がそのほぼ全部で、本件売渡請求時のその価格は合計二九億一九七〇万二〇〇〇円であり、本件会社の負債総額は六九六八万円であること、(4) 本件会社の営業は、右建物を第三者に賃貸することのみであって、直近二年間の年間平均利益額は九二万六〇〇〇円であるが、株主に対する利益配当は実施していないこと、(5) 従業員は全く雇っていないこと、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、本件会社は、営業の利益をあげて株主に配当をすることよりは、むしろ、資産の保有を目的とする色彩の濃いものであるが、ともかくも、会社設立以来一九年間にわたって営業を続けてきており、今後直ちに解散して清算するというものではないと認められるから、清算を擬制した純資産価額方式のみによって本件株式の売買価格を決定するのは相当でなく、会社の存続を前提とした算定方式による価格をも斟酌して決定すべきである。したがって、純資産価額方式のみによって本件売買価格を算定すべきであるとの抗告人の主張は採用することができない。
2. 抗告理由二について
抗告人は、相手方は本件株式を取得後は、これをいつでも取締役会の承認を得て第三者に高価に売却できる立場にあるのであるから、譲渡制限のあることを理由に本件株式の売買価格を減額することは、抗告人の犠牲において相手方を利得させることになり、不当であると主張する。しかしながら、本件売買価格は、本件株式の売渡請求時における譲渡制限のある状態での客観的価値によって決定すべきものであって、会社の指定した買主が誰であるかといった主観的事情により左右されるべきものではないから、抗告人の右主張は採用することができない。
3. 抗告理由三について
抗告人は、吉岡土地開発株式会社との間で本件株式を一株当たり一五万円をもって売買する旨の合意をしているから、その価格をもって本件株式の売買価格とすべきであると主張するが、右合意のあることのみをもって、直ちにその合意価格を本件株式の売買価格とすべきものではなく、他にその合意価格が客観的、合理的なものであると認め得る資料は何もない。したがって、抗告人の右主張も採用することができない。
4. 本件の場合、本件会社に類似した上場会社は見当たらないから、業種、態様の類似する上場会社を選定し、収益、配当、純資産等を比準して株式の価格を算定するところの類似業種比準方式は、これを採用し難く、また、本件会社は、利益配当をしていないから、利益還元方式もまた採用し難い。したがって、本件売買価格は、前記の純資産価額方式と収益還元方式を併用して算定すべきであり、本件会社の実態に鑑みると、その併用は、会社資産に対する持分としての要素を重視し、前者による算定額の七割と後者による算定額の三割をもってするのが相当である。
5. そこで、まず、純資産価額方式により、本件建物と本件借地権の価格合計二九億一九七〇万二〇〇〇円から負債総額六九六八万円を控除し、さらに清算のため右資産を処分した場合に納付すべき法人税等一六億二一九〇万一〇〇〇円を控除し、その残額を総株式数の一万株で除して、本件株式の一株当たりの売買価格を算定すると、その額は一二万二八一二円となる。また、収益還元方式により、年間利益額九二万六〇〇〇円を総株式数の一万株で除し、利益率を年一〇パーセントとして、本件株式の一株当たりの売買価格を算定すると、その額は九二六円となる。
次いで、右各価格を前記の割合で斟酌し、本件株式が、非上場株式で市場性がなく、かつ、譲渡制限が付されているものであることに鑑み、さらに三割を控除して、本件株式の一株当たりの売買価格を算定すると、その額は六万〇三七二円となる。
よって、本件株式三〇〇〇株の売買価格は、一株当たり六万〇三七二円とするのが相当である。
6. そうすると、右と同趣旨の原決定は相当であって、本件即時抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 小林亘)
<以下省略>